夢の中でも貧乏
私は千円札を五枚握りしめていた。
おぼろげではあるが、そこには知った仲間の幾人かが、いた。
何かの祝いごとのためであったろうが、今は想い出せない。
中央のテーブルには蓋の開いた缶ケースが置いてあり、
誰がいくら出したかは、みんな敢えてそこから目を背けているし、
どんどん投げ入れられるお金が一緒くたになって、分からないような塩梅になっているらしかった。
気持ちであるから、いくらでもよいと云っている。
あっ、そう、などと握りしめていた札を放り投げようとしたのであるが、
もちろん私にとっての精一杯、どころかフンパツしたお金に変わりなかったが、ためらった。たじろいだ。
そこには、万札などが、惜しみなく投げ込まれていたからに他ならなかった。
私は、みみっちい自分を、恥ずかしく想った。
穴があるなら、入るくらいじゃ飽き足らず、ずっと地中深く潜り込んでいたい気分だった。
情けない。
手を引っ込め、しんとなった場が一層、私を惨めにしようとしていた。
そんな沈黙など無視して、何事もなかったかのように、しらばくれて、放ることも可能であったかしらん、しかし私は一瞬間に、帰宅後の、寝床の中で七転八倒している自分を思い描いた。枕に顔を沈めては、これでもかというほどに喘いでいた。
そうして五年ほど経ったところで、なかなか眠れない宵なぞに、常に新鮮な恥となってにょきにょきと現れ出てくるのではないかと、懼れた。
笑ったのだ。「へへへっ。」と笑ったのだ。引き摺るよりは、そうしないと駄目な性情のせい、さらけ出したのだ。
「これっぽっちしかないや、ほらっ。」とくしゃくしゃのそれを掌広げて、見せた。
みんな、変に愛想笑いしてくれた。
「こまっちゃうなぁ、みんな儲かってるんだなぁ。」
なんて云わなくていいことまで云って、頭を掻き掻き。
くしゃくしゃを放りながら、
「ごめんなさい。」なんて誰に云うわけでなく、場の空気に吐いたのだった。
目覚めてみて、汗をびっしょりかいていた。
シャツを脱ぎ、顔を洗った。
鏡の中の私は、昨日の酒がのこっているせいか、むくんでいて、妙にひどい顔をしていた。
その顔に口角上げて、笑ってみせたが、どうしようもなく卑屈だった。
鏡の中の目の充血したそいつは、私に呟いてきたのだった。
「覚めても貧乏。夢の中でも貧乏。」